2023年7月20日、2023年度夏の青春18きっぷの利用が開始された初日、私は千葉の自宅から大阪まで向かいました。
その道中である静岡県にて。
「あの、とても変なことを言うんですが」
か細い声で、そう話しかけられた。
1時間半の移動中の出来事を、今日は日記に残そうと思います。
私自身、初めての出来事だったので、ご意見やこういうことに出会った際のアドバイス等あれば頂戴したいです。
07.20家を出る
7月20日金曜日、朝6:00。1時間の大寝坊で目を覚ました。
遅れてしまったが、実は寝坊する気がしていたのでさほど驚きはしなかった。
急いで身支度をし、家を出たのは6:00。
青春18きっぷを利用して大阪へ向かうため、駅を目指した。
東海道本線にて家出少年に声をかけられる
その少年に出会ったのは、興津から浜松へ向かう電車のなかだった。
私は寝不足と格闘しながら、ミステリ小説を読んでいた。
彼は途中から乗ってきて、私の隣に腰をおろした。
電車のなかで、隣に人が来ることは決して珍しくない。私ははじめ、なにも気に留めなかった。
しかし、ほどなくして隣からか細い声が聞こえた。
「あの、とても変なことを言うんですが」
本当に、細い声だった。乗換に関する質問かと思い、顔を向ける。と、その少年はじっとこちらを見て、言った。
次、島田って駅じゃないですか。

はい…(?)
ぼく、島田って言うんですけど…。



はぁ…(??)
島田に、島田さんって、住んでいるんですかね。
わけが、わからなかった。
その時私達の乗っていたJR東海道本線には「島田」という駅がある。その駅に停車する寸前、彼はそう声をかけてきた。



どうなんでしょうね・・・
ひとり旅で、異性と知り合うつもりもなかったので、そっけなく返事をした。
彼もなんと続けたら良いかわからない様子だったので、もう話は終わったものと思い、何事もなかったかのように私は読書へ戻る。読んでいたのはストーカー歴のある主人公と、シリアルキラーの話だ。
あの…
私が何事もなかったかのように読書に戻ると、しばらくして彼がまた声をかけてきた。
よかったら友達になってくれませんか。
よりによって電車のなかでナンパか。周囲の人の視線が気になりつつ、そういうつもりはないので、ストレートに「ごめんなさい、求めていないので」と答える。しかし、
読書、好きなんですか。
どうにも話が噛み合わない。 もしかして知的障害を持っている人だろうか。 話の一方的さと、コミュニケーションのぎこちなさを感じ、そう考えてみる。



たまに読むくらいです。
難なく人とのコミュニケーションを取れる人間なら、察せざるを得ないほど素っ気なく私は答えた。少年を挟んだ場所に座っている女性が私と少年の会話を聞いて、気味悪がっているような表情をしたのが見える。
ひとりで過ごすのが好きな人ですか。



そうですね。
あ、そうなんですね。ごめんなさい。しつこくしてしまって。そういう人もいますもんね。
まぁ、そうですね。
我ながら、なかなかそっけない態度だったと思う。しかし、ようやく迷惑だと気づいてくれたかと思い、安堵した。
が、彼はまた数分すると声をかけてきた。
「ぼく、親とうまくいっていなくて」
「あの、変なことを言うんですが」
彼はふたたびそう切り出した。



(放っておいてほしいって気づいたんじゃないの??)
若干の苛立ちと、面倒臭さを感じながら彼の言葉に耳を傾ける。
ぼく、親とうまくいっていなくて。高校も、退学させられて。
その言葉に、それまで迷惑としか感じなかった彼の言葉が重みを帯びた。
話を聞けば、彼は次のような状況らしかった。
- 高校を退学させられている
- 中学は私立に進学したが、そのときの学費を返せと言われて今働きながら返している
- 学校に行かせてもらえないので、働いているが、給与はほぼ親にとられてしまい手元に残るのは1,500円程度
- 銀行口座も親に握られている
正直、彼とは初対面だったし、どこまで鵜呑みにしても良いものかわからなかった。しかし、もし事実ならけっこう深刻な事態だ。
助けてほしくて。
まんまるな双眸がこちらを見ていた。一番に感じたのは、怖さだった。信じることの怖さ、関わることの責任の重さ、聞かなかったふりをする身勝手さ。
私自身、まだ26年しか生きていないが、これまで人間関係で何かと嫌な思いをしてきている。あまり迂闊に信じようと思えなかった。しかしもし事実なら、彼は大変つらい状況だ。
頼れる人がいなくて。相談したいときに、電話とかさせてもらえませんか。
どうしたら、良いのだろう。経験の少ない頭で、真剣に考えを巡らせた。
スマホ、持っていないので、公衆電話からになっちゃうんですけど。。



ごめんなさい。
考えた末、私は断った。昨年も、人を迂闊に信じたばかりに後悔をした。もう、同じような思いはしたくなかった。
自分の身を守れるのは自分だけ。他人は誰も守ってなどくれない。けっきょく、味方になどなってはくれないのだ。どんな正しい事実があっても。
断って良いのか、わからなかった。けれど私は怖かった。これ以上、傷つくのが。
別れたあと、「スマホを持っていない」という彼の言葉が違和感として強く残ることになるのだが、この時は自分の身を守らなきゃいけないと神経を張っていたため、そんなことにはちっとも気が付かなかった。
けっきょく少年とは、断ったあともすこし話をした。「どうしたら良いんでしょう」というので、「私は専門家じゃないからわからない」と言って、「話を聞くのが上手な人たちがいるから、頼ると良いと思う」と言った。
身近に、精神疾患の人間が複数いるので、言葉の重みは重々承知しているつもりだった。怖かった。自分の無知が相手に与えてしまう影響が。だからもう何も聞かないでほしかった。
けれどなにも伝えずに別れて、彼が後々人を信じられなくなったりしたらどうしよう。そう思うと、なにか彼に与えなくてはいけない、という気持ちになった。怖かった。とても。



今はとっても辛い時期だと思うけれど、きっといつか幸せになれるときがくると思うので。
無責任だろうか、と思いながらも、そう言った。希望に根拠なんかいらない。信じられることが大事なのだ、と私自身は経験から感じていたから。
彼にその言葉がきちんと伝わるかはわからない。けれど、



良い出会いがあることを祈っていますね。
と、伝えた。
別れ際、彼にこう聞かれた。
ぼくのしていることは正しいと思いますか。



色んな人に声をかけること?
じゃなくて。親と、離れようとしていること。
電車のなかで、すこし話を聞いただけだった。ただ、彼は自立を望んでいて、仕事をしているにも関わらず、未だ口座は親が握っているという。
その話が、本当かどうかも実際にはわからなかった。
反対に、もし本当なら、そこで私が彼に与える一言の重みはいったいどれほどのものになるだろう。気がつけば、スマホを握る手が冷えきって震えていた。



あくまで、この短い間に聞いた話が事実だとして。中学の学費を返せって言われたり、高校を退学させられたり、一生懸命働いているのにそのお金を親御さんにとられてしまうっていうのが事実だとしたら。自立のためには親御さんから離れたほうが良いのかなって気はします。
怖かった。自分の回答が、相手にどういう影響を及ぼすかと思うと。
しかしもし彼の言うことが事実なら、なにかしら真面目に回答を示すべきだと思った。



ただ、あくまで私は他人なので。責任は取れないですけど。
言葉の重みがあまりに怖くて、早口にそう付け足した。
声を掛けても、無視されることが多くて。返事をしてもらえることもなかなかないので。ありがとうございました。
浜松駅で一緒に駅を降りると、彼はそう言ってお辞儀をしてくれた。
本当、ありがとうございました。
乗換の電車へ向かいながら、何度も小さく頭を下げて。
当の私はというと、最後まで相手に抱いた疑心を完全には払拭できずにいたので表情をこわばらせたまま、



いえ。とんでもないです。良いことがあるように祈っています。気をつけてくださいね。
そう言って、ホームを後にした。
家出少年と別れて思うこと
彼と別れたあと、私は浜松駅で途中下車した。改札を出てすぐのところにある浜松餃子の店へ向かうため。
餃子と静岡ビールを注文し、出てくるまでの間、彼のことを回想した。ちょっと離れてみると、緊張の糸がほどけたからか、彼に対して先程よりも親近感を覚えた。
そして、彼が言った「スマホを持っていないので」という言葉がひっかかった。
19歳でスマホを持たせてもらえないのは、明らかにおかしい。ナンパなら、スマホを持っていないと言うわけがないし、犯罪者で電話番号を収集しているんだとしても設定が複雑すぎる。
19歳なら成人しているから、もう自分でスマホを持てるはずだ。私は一時期、携帯の販売員もやっていたのだから、スマホを持つためのアドバイスくらいできたはずだ。
仕事だって、「している」と言ったが、スマホなしでどうやって連携をはかっているのだ。
色々な疑問が、四方八方から首をもたげた。しかし、後の祭りである。
「おまたせいたしました〜。生ビールですー」
私の隣にいるサラリーマンの元へビールが運ばれる。
「え、ぼく頼んでないですよ」
リーマンが困った声を出す。「あらぁ、15番さん・・・、ビールじゃない・・・あらっ」店員のお母さんが、はっとして私の方へ向かってくる。
「生ビール、お姉さんですね」
「こっちのほうが飲みそうに見えたかな」
リーマンが笑う。店員のお母さんも明るく笑い、私は運ばれてきたビールジョッキをぽうっと眺めた。
まもなく運ばれてきた餃子定食を、見つめ、彼にも食べさせたあげればよかったかな、と思った。
電話番号を交換して、後々関係が続くとなると、責任があまりに重いけれど、一日だけ親身になれたなら良かったのかもしれない、と。
「すこし時間ある?」
と誘って、すこしだけ相談に乗れたら良かったのかも知れない。
彼は成人しているから、もう誰かの子供であるがために困っているという理由は通用しない。そういった理由で取り合ってくれる公的機関はない。
もう自分の力で、どうにかするしかないのだ。
親御さんに給与を取られてしまうなら、それをどうしたら回避できるのか、一緒に考えればよかった。毎月いくら必要で、そのためにはどうしたら良いのか、一緒に考えればよかった。
そのくらい、できたはずなのに。時間だけはあったのだから。
いま、後悔している。もっと彼のためにできたことがあるはずだ。
私自身、経験から知っている。見ず知らずの人に、自分の過去を話してまで救いを求めてしまう時期の辛さを。若さゆえかもしれない。けれど、その時どのようにして周囲の人間に対応されたか、それによってその人の今後はまったく変わるんじゃないか。
私が今回、このようにして見える形の日記として残しているのは、今後同じような事があった時、後悔をしないためだ。
どのような対応が正しいのか、一緒に考えて、教えてもらえたら、とても嬉しい。
島田くん、力になれなくてごめんなさい。もしまた私を見かけたら、また声をかけてください。その時はちょっとでもなにか力になりたいなと思うので。
「助けて」と言ってくれない人も多いなかで、せっかく助けを求めてくれたのに、なにもできなかった。そのことが、本当につらい。本当に申し訳ない。ごめんなさい。
【最後に】「児相は相手にしてくれなかった」
彼は中学生の頃、児童相談所へも行ったのだと言った。
しかし相手にしてくれなかったのだと。
私の親は公務員として働いているので、私自身は公的機関に対して偏見めいたものはない。
公的機関に関わらない、どのような職種でも対応した人間によってその職種への印象はがらりと変わるものだろう。
けれど彼のなかでは、公的機関に対する不信感が根強いようだった。
それだから普通の生活のなかで、今回のように見ず知らずの人に声をかけて友達を増やし、どうにか生きていけるようになりたいのだと、彼は言った。
(「助けてほしい」と、他人頼りなのは、まだ若いので多めに見よう。人に頼れることは大事だ)



私はそういった話に対しての知識がないので、適切なことを言えないです。もっと適切な回答をくれる機関があると思うので、そういったところに相談した方が良いと思いますよ。
話の重みに耐えきれず、そう言った私に彼はこの話をしたのだ。「公的機関は信用できない」と。
さて、だいぶ話しが長くなりました。
青春18きっぷでの旅行初日の出来事。どのような言葉をかけ、どのように対処するのが適切だったのでしょうか。
いまだに、わかりません。
だからもし、アドバイスなどあれば遠慮なくご指導いただきたいです。
コメント、お待ちしております。
こういった状況(成人したけれど親子関係のために日常生活に支障が出ている場合)に対処してくれる機関などあれば教えて頂けると、大変うれしいです。よろしくお願いいたします。
私自身、とてもつらかったとき、まだ「知り合い」程度の人に助けられた経験があります。たかが「知り合い」でも、人を救えるのだと実感があるので、誰かの力になれる機会に恵まれたのなら、きちんと役目を果たせるようになりたいです。
と、長くなりました。つらつら申し訳ありません。でも、人がすくすく育つためには家庭環境が大事なのは言わずもがなで、しかしでは家庭環境が悪ければその人はつらく不器用に生きなくてはいけないのかと言ったら、そんなことが許されていいとはとても思えないので、なにか力になれるなら、なりたかった。
(道頓堀で串かつ食べながら盛大に酔ったので、冗長になったかもしれません。でも気持ちはウソじゃない。)
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